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海外経験者は成果が高いのか?

海外赴任・出張を経て帰任した人たちは、どんな成果を上げているのでしょうか?

日本の多国籍企業の海外での事業活動、近年ではとりわけ、日本企業が海外で行う研究開発(以下、R&D)の金額規模が拡大しています。

2018年度における日本企業(製造業)の現地法人での研究開発費(※本日時点で最新のデータです)は、2009年度の2倍強、海外研究開発費比率は5.5%を占めるまでに急増しました(経済産業省(2020).「第49回海外事業活動基本調査」)。

日本企業が海外でR&Dを行えば、当然、日本から海外に派遣される技術者も多くなるわけです。少なくとも、R&Dの対外直接投資の初期段階では。

こうしたなか、人事管理の領域では、海外赴任のメリット・デメリットが議論されてきました。

 

海外赴任者の強みは、以下のような研究で実証されています。

  • 海外で身につけた暗黙知は、成文化や他人への教示が難しく競合他社に模倣されにくい(Argote and Ingham, 2000; Subramaniam, Rosenthal and Hatten, 1998)。
  • チームに、海外経験者がいる場合、グローバル展開できる製品を開発する能力が高くなる(Subramaniam and Venkatraman,2001)。
  • チームに、異なる国・地域から移動してきた者がいる場合、チームの特許の被引用数が多い(Singh, 2008)

 

でも、帰任後に、海外経験を活かせず悩みを抱える者が多いことも報告されています。

  • 帰任者は帰国後の地位の低さや裁量の小ささに落胆する。上司や同僚からの支援を受けられず、キャリアの見通しを立てにくい(Lazarova and Tarique, 2005)。
  • 帰任者が海外で学んだ知識と経験は、周りから正しく認識されづらい。帰国後、彼・彼女らを迎え入れても知識・経験が組織学習に活かされない(Antal, 2001)。

 

また、企業の担当者からは

  • 帰任者が外国のやり方や文化を持ち込んでも、「外国かぶれ」と言われ白い目でみられることがある。
  • 日本人赴任者が任期満了せずに帰国したケースもある。多様なアイデアや人物を寛容できずに、押しつけのマネジメントをした結果である。

と言った声も聞かれました。

 

そこで、海外経験者のパフォーマンスについて、アンケート調査で確かめてみましょう

われわれが行ったアンケート調査の概要

対象  企業の研究・開発・設計部門の従業員
有効回答数 751(人)

もちろん、この中には海外経験がある人もない人もいます。

今回は、全回答者(751名)を対象にして、
「海外経験の有り、無しによって、現在の研究開発成果に差がでるか?」

を調べます。 
※ここでの「海外経験」は「海外赴任」および「海外出張」の経験を指します。両方経験している人もいます。つまり、全てで3パターンです→「海外赴任経験」「海外出張経験」「海外赴任・出張経験」

 

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今日、ご紹介する分析は次の4つ。下記で述べる4つの「仕事上の成果」を高めるにあたり、海外経験が有効なのかを検証していくという方法を採ります。

 

 分析1 新しいアイデアを実現に向けてまとめることがよくある
 分析2 新たな問題解決策を思いつくことがよくある


 分析3 過去2年間における新製品のリリースの有無
 分析4 過去2年間における学術論文の有無

 

分析1の結果 
成果変数:「新しいアイデアを実現に向けてまとめることがよくある」
  • 海外出張経験者と海外赴任・出張経験者は、それ以外の者よりも、新しいアイデアを実現に向けてまとめることがよくある。
  • 国内他社,大学,研究機関の研究開発者との知識交換をしている者ほど、新しいアイデアを実現に向けてまとめることがよくある。
  • 上司と頻繁にコミュニケーションをとっている者ほど、新しいアイデアを実現に向けてまとめることがよくある。
分析2の結果
成果変数:「新たな問題解決策を思いつくことがよくある」
  • 海外出張経験者はそれ以外の者よりも、新たな問題解決策を思いつくことがよくある。
  • その他は分析1と同じ結果。
分析3の結果
成果変数:新製品
  • 海外赴任・出張経験者はそれ以外の者と比べ、新製品を出す可能性が高い。
  • 自分の職場では「海外の人的ネットワークを活用することが高く評価されている」と答えた人ほど、新製品を出す可能性が高い。
分析4の結果
成果変数:論文
  • 海外出張経験者はそれ以外の者に比べ、学術論文を出す可能性が高い。
  • 国内他社,大学,研究機関の研究開発者との知識交換をしている者ほど、学術論文を出す可能性が高い。

 

まとめ
  • 海外経験を持つ研究開発者は、主観的な成果でも客観的な成果でも成果を出している。

ただし、もともと優秀な人が海外に派遣されているのでは?という反論は当然、あり得る。それに対しては、「成果」は現在(アンケート回答時)。「海外経験」は過去。すなわち、海外経験を経た今の成果という時系列になっているから、因果関係の向きも、<海外赴任→帰任後の成果>と、回答したい。

  • 海外出張は結構な数の人が経験している。まだレアな赴任者の強みという意味では、新製品を出す確率が高いという発見に注目していきたい。
  • 海外ネットワークが評価される組織で、新製品が出やすいというのは興味深い。
  • 社外の研究機関と知識交換をするという、いわゆるオープン・イノベーションは、研究開発者のアイデア・問題解決策の発想にプラスになっている。

 

 

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